当院の分娩の考え方

安全を最優先とするお産

 剃毛(テイモウ)

外陰部の膣と肛門の間の陰毛を剃ることです。分娩時の会陰切開や会陰裂傷の縫合を清潔に行うために必要な処置です。剃毛は必要ないとの考え方もありますが、当院では清潔なお産をするために、初産婦さんには全て、経産婦さんでは約半数に剃毛を行っています。
 

 浣腸(カンチョウ)

細いチューブで肛門からグリセリン液を注入して便意を促します。赤ちゃんが産まれるときには「いきむ」動作が必要となりますが、これは排便の時におなかに力を加えるのと同じ動作です。分娩の時に便が出てしまうことがあるため、予め便を出しておくことによって清潔なお産をすることが目的です。浣腸の刺激によって、子宮への自律神経が刺激されて陣痛がつきやすくなることもあります。 当院では原則として全ての妊婦さんに浣腸を行います。

 分娩監視装置・監視システム

胎児の心拍や陣痛の周期・強さを記録する機械です。分娩中に一番大事なことは赤ちゃんが元気であることを常に確認することです。当院では原則として、陣痛があるうちは連続して胎児の心拍と陣痛をこの機械で監視しています。もちろん、分娩時間が長くなる場合には、休憩時間をとるようにします。赤ちゃんの心音が聞こえることで安心感も得られます。
分娩監視装置の胎児心拍や陣痛の所見を他の部屋のモニター画面で見ることができます。当院では1階の外来と院長室、2階のナースステーション、4階の自宅の4カ所で常に赤ちゃんの状態を見守っています。それらは、デジタルデーターでコンピュータに記録されます。もちろん、ベッドサイドでの観察や援助も怠りません。
装置のセンサーをベルトでおなかに巻くため、その間お母さんの活動を制限することになりますが、安全なお産のために最も重要なことなのでご協力いただければと思います。

 内診

子宮口の開き具合、柔らかさ、胎児の頭の下がり具合、頭の向きなどを確認します。陣痛があるにも関わらず分娩が進行していない場合等には、その原因を診断してしかるべき処置を行う必要があります。分娩の進行を把握するために必要な診察手段ですので、ご協力ください。

 点滴

赤ちゃんが産まれる直前には必ず血管が確保できるようにするため点滴をします。なぜなら、稀なことですが大出血を起こしてショック状態が発生してしまった場合には、血管が虚脱状態になってその後には点滴が入らなくなってしまうことがあるためです。大切な命を守るため、迅速に対応できるようあらかじめ血管確保が必要なのです。
当院では、赤ちゃんの娩出時には必ず血管確保をします。

 導尿

尿道から管を挿入して膀胱の尿を取ることです。お産が進んでくると胎児の頭が邪魔して上手く排尿ができなくなってきます。尿がたまったままであると膀胱が胎児が出てくるのを邪魔してしまうこともあります。また、膀胱が膨らんだまま胎児が下降すると膀胱損傷を起こす危険性もありますので、その予防対策としても分娩間近に実施します。

 人工破膜

赤ちゃんは卵膜の中の羊水に浮かんでおり、分娩直前にその膜が破れて(破水)生まれてきます。その膜を人工的に破ることを「人工破膜」と言います。陣痛の進行が遅いときには、これを実施することで分娩が進むことがあります。鉗子の先で薄い卵膜を破るだけですので痛みはありません。出産を無事に行うため、必要に応じて実施します。

 陣痛誘発・陣痛促進

陣痛が全くないときに陣痛を起こすことを陣痛誘発、弱い陣痛をさらに強めることを陣痛促進と言います。誘発は、前期破水(陣痛がないまま破水する状態)、過期妊娠(予定日超過)などの場合に行います。
前期破水では子宮内感染・胎児感染のおそれがあるため、陣痛を誘発して分娩を完了する必要があります。また、過度に予定日を過ぎると胎盤機能が落ちてくることがあるので、7~10日すぎた場合には誘発をする方針です。陣痛促進は、陣痛が弱い(微弱陣痛)ためお産が長引いた時(分娩遷延)に行います。
分娩促進剤(子宮収縮剤)は元々体内に存在する子宮収縮作用の物質を化学的に合成した薬剤で、促進剤自体に危険はありません。その使用方法には注意をすべきであり、当院では促進剤の点滴投与時には定量ポンプと分娩監視装置を用いて、安全を確認しながら使用しておりますのでご安心ください。

 会陰切開術

赤ちゃん頭が産まれる時に、会陰(膣と肛門の間)をはさみで切ることを会陰切開術といいます。
会陰部には伸展性があるので、ゆっくり時間をかけて分娩すれば会陰切開は必要ないという考え方もあります。しかし、時間をかけることによって胎児の負担が増えることもあります。切開によってより元気な赤ちゃんを分娩することの方が好ましいと考えます。
会陰切開部の痛みが産後に辛いのではないかとの心配をされる方がいます。当院では会陰切開はすべて正中切開(膣から肛門に向けて真っ直ぐに切る)で行います。側切開(肛門を避けて斜めに切る)もありますが、正中切開の方が痛みは格段に少なく、産後2~3日すれば、痛みはほとんど軽減します。また、縫合の糸も全て、抜糸を必要としない吸収糸を使用します。
当院では初産婦の90%以上、経産婦の約半数に会陰切開を行っています。

 呼吸法

上手な呼吸をすることにより、苦痛を紛らわせながら、陣痛と付き合っていくことが出来ます。痛くて息ごらえしてしまうと胎児に酸素が回らなくなってしまうので、上手な呼吸法により胎児に酸素を送ることが大切です。母親学級で指導しますので是非参加してください。

 LDR

お母さんの負担を軽減するために、Labor(陣痛),delivery(分娩), recovery(回復)を一つの部屋で行うLDRシステムを導入しています。
陣痛から分娩、その後の入院生活までを同じ部屋で過ごすという本格的なLDRもありますが、当院では分娩後2時間ほど経過して、お母さんの体が楽になった時点で入院室に移動していただきます。陣痛の記憶や血液や羊水の臭いがこもった部屋にずっといることが真のリラックスにはつながらないという考えと、できるだけ全ての患者さんにLDRを利用いただきたいという思いからです。是非一度体験してください。

 立会い分娩

ご主人の立ち会いをお勧めします。二人で協力していいお産をし、いい育児につなげてもらうことが目的です。立ち会い分娩は「見学」ではなくお産に「協力」いただく、「参加」いただくということなので、ご主人も準備が必要です。ご主人にもお産の勉強に来ていただき、勉強の済んだ方だけが分娩時に立ち会うことが出来ます。(出産の立ち会いはご主人のみに限らせていただいております。ただし、陣痛の時間はお母様もLDR室に入れます。)

 前回帝王切開術

以前のお産が帝王切開だった方は、子宮壁の手術した箇所が次の出産で破裂することがあります。破裂をすると母児ともに危険な状態に陥りますが、子宮破裂を事前に診断するのは非常に困難です。子宮破裂がおこった場合には緊急帝王切開術によって20分以内に赤ちゃんを取り出す必要があります。しかし、24時間、365日を通じてこの様な超緊急対応が可能な施設は全国でも極めて少数と考えられます。当院では、安全なお産のために帝王切開経験者は2度目も帝王切開を行います。

 骨盤位妊娠

骨盤位分娩では、体で一番大きな直径である頭が最後に娩出されるため児頭がひっかかってしまったり、臍の緒が先に出てきてしまう臍帯脱出がおこるなど難産の危険性が高くなります。そこで、当院では妊娠35週頃に「外回転術」によって、骨盤位を頭位に修正する処置を行います。それでも骨盤位が治らないときには、安全を優先して帝王切開術を行います。

 双胎

双胎などの多胎では、早産のため低体重で生まれてしまったり、胎児間の血液のバランスがくずれて胎児が危険な状態に陥ることがあります。また、出産後にも複数の低体重児の養育に適切な指導が必要です。そこで双胎の場合には、連携先である葛飾赤十字産院にご紹介しております。葛飾日赤は綿密な多胎管理を行っている有数な施設ですので、安心して受診できます。

 母児同室・別室

出産後には、お母さまと赤ちゃんが同じ入院室で一緒に過ごす”母児同室”と、赤ちゃんを新生児室にお預かりして授乳時にはお母さまが授乳室に足を運ぶ”母児別室”のふたつの方法があります。当院では出産の後およそ1日間は、お母さまの疲労回復、静養のために赤ちゃんを新生児室にお預かりします(ご希望があれば同室も可能です)。その後の入院期間は原則として昼間は母児同室、夜間はお母さまの希望によって同室、別室が選択できます。